数年前、母が、

「もう大丈夫だと思うから」と言って、父親が前科者だということを私に教えてくれた。彼は勤め先で扱っている商品を横流しし、逮捕・勾留されたのだ。裁判の結果は有罪であり、執行猶予付きの懲役刑に処せられたのであった。私が生まれる前、父親と母が結婚する直前のことである。
しかし、カウンセラーによれば、母のこの告白は遅すぎたのだ。
父親が前科者だということがわかった時点で、あるいはせめて僕が高校を卒業した位の時点で伝えるべきだった。
そして、これは重要なことだと思うのだが、彼女がつい最近まで父親の件を僕に秘密にしていたということが、暗黙のうちに「秘密にしなければいけない」「父親の問題については語っていけない」というメッセージとして、僕に伝わっいたのではないか。そして、そのことが結果的に僕を縛る鎖として作用し、身動きができない状況で、繰り広げられる酷い現実の前で目を覆うしかない、まさに精神的虐待と言うべき状況を作りだしたのではないか。